第0.2話 受容

大学近くの下宿を引き払う日が迫る。

荷物をまとめる。

ひとまず行き先は実家。

ぼくは実習が始まってから1人暮らしを始めたからたった2年ちょいの下宿生活だった。

 

1日に何度も講師速報やみんコレ(医師国家試験採点&統計サービス)を開く。

自分の順位が何かの間違いで上がってくれていないか。

自分より下の順位の人が激増していやいないか。

そんな期待を込めて。

 

 

医師国家試験から10日が過ぎ、各サービスは最終の予想解答を出し終えた。

ぼくの点数はもう動かない。

これから大幅に順位が動くこともないだろう。

 

予想ボーダーや人数的に4月にぼくが医師として働けている可能性はかなり低い。

人数が集まってきて、もはやその未来を否定しきれなくなってきた。

1年の教養科目の統計を落としたぼくにもそれくらいはわかる。

 

厚生労働省による正式な合格発表まで1ヶ月を切った。

厚生労働省の気まぐれ(将来を見据えた計画だと思いたい)で合格率が爆上がりすればもしかしたら受かっているかもしれない。

それくらいしかもはや期待できるものはない。

 

ぼくはフリーターになる。

1年後の医師国家試験までは浪人生。

その覚悟をし、受け入れる時が来たのだ。

 

それでもぼくは若干の期待を込めて、合格発表後の準備はちゃんと進めている。

来年にも生かせるから。

それに、最後の瞬間まで、少しだけでも望みを捨てたくなくて。

試験当日だって諦めなかったのだから、それくらいはしておきたくて。