第9話 9がつ。

114回国試まであと半年を切っている。

危機感は、ある。

あるったらある。

昨日は中学からの友達と遊び倒したし、今日も授業終わるなり帰宅してから一切勉強してないけど、焦ってはいる。

 

今年は過去問5年分やろう、とチューターさんに言われてしまって、いざやろうとなるとかなりのハイペースでやらないといけないはずで。

今のところ113回と112回には目を通し終わってるから明日から111回。

決められた期限にはまったく間に合う感じしないけど、頑張っていかなければ、という感じ。

 

日々授業受けて、去年よりだいぶ知識量増えて、なんとなくで解いてた問題をだいぶ考えて解けるようになって、いい傾向ではあるんだけど、いかんせん元が低すぎるから現役各位に追いつけてる感じもなくて。

 

今月末には模試もあるし、なんかもうわけわかんなくてとりあえず頭抱えてる。

 

 

『天気の子』を見てきた。

舞台の1つである新宿は今年のぼくが通っている街。

もしぼくが国試浪人していなかったら、一生通うことのなかったはずの街。

新海作品のファンってわけでもないし、特段の思い入れも特にないけれど、国浪したからこそ感じられる作品への親近感みたいな何かをつい感じてしまった。

 

中高生くらいが主人公の物語というものは巷に溢れているけれど、いつの間にか素直にストーリーに没入できなくなっている自分がいる。

主人公が自分と同世代だったころ、物語の主人公を見ると自分もがんばろうって思っていた。

主人公が少し年下になった20歳頃、まだ登場人物たちの活躍は憧れの一部だった。

主人公から四捨五入で10歳離れてしまった今、登場人物に対して劣等感を覚えざるを得なくなった。

あいつらは中高生なのに立派に戦ったり努力して何かを成し遂げたりしているのに、今のぼくには何もない。

大学6年をほんとのほんとに怠惰に生きた、より正確に言えば死なずにくぐり抜けた程度の人間だから、部活をがんばった青春!もないし、留学経験もないし、何の特技もない。

この話なら誰よりもできるみたいなものは何にもない。

面接で、もし「大学時代に一番印象に残った出来事は?」みたいなこと聞かれたらどうしようって震えてたくらいに。

正直に答えるとしたら「気付いたら6年何もせずに過ぎ去りました」というしかなくなるので。

 

医学部とかいう世界には、多分に偏見が含まれているけれど、バイタリティ溢れた才能の塊みたい人が多すぎると思っている。

勉強はたぶん日本の中では相当忙しいのにもかかわらず部活もみんな熱心だし、おまけにバイトもガッツリやって、長期休みには留学!研究!みたいなのがゴロゴロいる。

対してぼくは大学4年までは単位取れるギリギリレベルの不登校でもちろん帰宅部、かなりの試験を追試になり、バイトはしてなかったわけじゃないけどなにをがんばったこともなく、留学どころか語学力は大学入学以来下落の一途、研究なんて何も知らない。

挙句の果てに国試落ちて今ニート。返すことになってるとはいえ親の金で予備校に通ってるし、毎月お小遣い制度である。

身分が保証されてるって意味では小学生の方が余程上等なのではないだろうかと思えてくるレベル。

 

ぼくは高校でも中の下くらいの成績だった。それでも周囲に対して劣等感を感じたりはしなかった。

自分が楽しく生きていられるってことに満足していた気がする。

なのに大学にたまたま入れちゃって、周囲の圧倒的な才能や努力を目の当たりにして、ぼくは完全にやる気を失ってしまった。

たぶん心構えが足りなかったんだと思う。

 

浪人が決まって、やっと少し安心できた気がした。

自分が本来いるべき場所にやっと来れたというか、人生における足踏みをどこかでしたかったというか。

大学入試が終わって以来、やり方すらわからなくなっていた「努力」をやっとちゃんとできるようになった気がする。

これが浪人した最大の利点になる、そんな気さえする。

 

 

自分には物語の主人公になれるような魅力は、たぶんない。

何か大きなことを成し遂げる継続力や才覚も。

小市民として世界のすみっこでちまちま生きていくしかない運命なのだ。

これが現実。夢を見ていた中高生の自分に、さようなら。

明日もしっかり授業受けて、できることを少しずつ。

まずは医師国家試験を通り抜ける。

人生はやく立て直そうね。